ボイラー室の前で、小田切は足を停めた。
人の気配がする。

扉には南京錠がかかっている。
小田切は、落ちていた針金で鍵を作ると、南京錠を開けた。

熱い、と思ったら、火の手が上がっていた。
「もうここまで来たのか?」
甘利だ。
いつもは汗ひとつかかない冷静な男が、汗まみれになり、疲労困憊した様子で、姿を現した。
「どうした?らしくないな」
小田切が言うと、
「閉じ込められたんだ・・・火の中に。魔王は俺たちを殺す気だぜ」
「閉じ込められた?この部屋には出口はないのか」
「出口なら一箇所だけある。地下道に通じる入り口だ。ただし、重くてひとりじゃ持ち上がらない」
「貸してみろ」

小田切と甘利は協力して、地下道への扉を持ち上げた。
「早く・・・入れ・・・」
甘利が言った。ひとりが持ち上げていなければ、入ることができない。
「いいのか?だが、貴様はどうする」
「いいから・・・はやく・・・」
大きな身体を縮め、滑り込むようにして、小田切は地下へと滑り落ちた。
扉は閉まった。
甘利の顔は見えなくなった。

地下道は下水道に通じているのだろう、水の腐った嫌なにおいが垂れ込めていた。

「誰だ!」
誰何すると、
「俺だ。協力者だ、銃を降ろせ」
福本だった。

「協力者だと?・・・本当か、証拠は?」
「そんなものはない」
確かに、いままで協力者と思われるのは、田崎と、甘利だった。
だが、田崎の情報は偽物で、甘利にしても、協力者だとは名乗らなかった。
信じていいのか・・・?
天井から絶え間なく落ちてくる水滴のせいで、福本は濡れていた。
もっとも、イルカと泳いだ小田切も、かなり濡れているのだったが。
「・・・爆弾なんて最初からなかったのか・・・」
「それは、どうだろうな?」
福本は煙草に火をつけた。湿っているせいで、なかなか火がつかない。
「吸うか?」
差し出された煙草。だが、毒かもしれない。
「なんだ、疑いぶかいな。協力者だと言ってるだろう?結城さんはこういっていた。爆弾が爆発しても、別に死にはしない。ただ腕くらいはもげるかもしれんがな、と」

福本は笑って、煙草を銜えさせた。

「俺はいつもお前のそばにある」

そういって、福本は闇の中に消えた。









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