東京郊外の廃屋で、D機関の特別な訓練が行われた。

趣旨は、どこかに仕掛けられた爆弾を廃棄すること。
参加している仲間は敵だが、例外としてひとりだけ協力者の存在がある。ただし、それが誰なのかはわからない。協力者の指示を仰ぐこと。甘言を用いて、敵を寝返らせるのは自由とする。
敵を倒し、迷路のような廃屋からいちはやく脱出すること。

それら全てを成し遂げたものには、特別に賞金を与える。
というものだった。

「D機関員同士で闘うのか・・・」
自信がないわけではないが、敵は7人、いや、協力者を省くと6人いる。
敵を出し抜いて賞金を手にするには、相当の覚悟が必要だ。
協力者の存在がまた厄介だ。
敵と間違えて撃つ可能性もあるし、自ら協力者だといったところで、嘘かもしれない。
それに、いままでどんな過酷な訓練でも賞金がでる、というのは異例だ。
おのずから、真剣にならざるを得ないだろう。

小田切は、時計を見た。
1時5分前。そろそろ自分の番だ。
小田切は武器としてピストル型の麻酔銃を選んだ。
これなら、間違って殺すことはないし、遠慮の必要もない。
思う存分闘えるだろう。
もっとも、腕に覚えのあるほかの機関員たちは、武器すら選ばなかったと聞く。
尊大なる自負心。
D機関員に共通のものといえば、それだけなのだが。
小田切は古びた廃屋の中に入っていった。

ガシャーン!!

いきなり、天井のガラス窓が破れ、誰かが飛び込んできた。
ガラスの破片が降ってくる。小田切は腕をクロスして、それを防いだ。
「最初は、僕だよ」

軽やかに床に降り立ったのは、背広姿の三好だった。
「本気モード全開だな・・・!」
小田切は、クロスした腕を外して、三好を睨んだ。
「まあね、夜遊びのつけがたまってるんだよね」
三好は赤い唇を舌で舐めた。
「それは麻酔銃?僕を眠らせてどうするつもり」
撃たないと確信してか、三好は素手のまま近づいてきた。

「近づくな・・・撃つぞ」
小田切の額から汗が流れた。
もう至近距離だ。今、撃たなければ三好に組みふされてしまうだろう。
三好はピストルに手をかけた。
次の瞬間、ピストルはもぎ取られ、小田切は力いっぱい蹴り飛ばされていた。

床に左手をついて、体制を建て直し、小田切は反撃に出た。
蹴り技なら、背の高い小田切のほうが有利だ。
足で責めまくると、三好は防戦一方になった。
小田切の足裁きをかわしながら、じりじりと後ろに下がってゆく。
もう少しだ。
そう思ったとき、三好の姿がふっと消えた。

「なに!?」
三好は床に両手をついて、前転をして、小田切をかわした。
曲芸のような身のこなしだ。
小田切も負けじと床に反転し、落としたピストルを手に取った。
「撃てるの?この僕を」
からかうような口ぶり。媚態だ、と小田切は思った。
三好は色仕掛けで来るだろう、そう予測はしていた。

小田切が銃口を向けると、三好はバク転で、数歩下がった。
だが、背中にはコンクリートの壁。もう下がることはできない。
「動くな」
小田切が言うと、三好はにっと笑った。
三好がしゃがむのと、小田切が撃つのがほぼ同時だった。

ズガーーーン!
銃声が響いた。
一瞬、壮絶な微笑を見せて、三好は倒れた。

三好の倒れた場所に近づく。
三好は、手折られた薔薇のように、横たわっていた。
しゃがみこみ、呼吸を確かめる。
気を失っているだけだ。息はある。

まずは、ひとりだ。
小田切は先を急いだ。


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