「自分でもわからないんだ。寝ているお前の唇が、女みたいに赤いなと思って眺めていたら、急にむらむらっときて・・・」
「むらむらっとか、いうな」
「でも本当なんだ。・・・ごめん」
茶碗から立ち上る湯気を、眺めた。
「いいよ、もう。冗談なんだろ」
「ああ」
掠れた声が、妙に切なく響く。

「お前、口紅塗ってる?」
「はあ?塗ってないよ」
「自然に赤いのか・・・」
「よせよ」
間宮の目が、僕の唇を捕らえている。
僕は口元を隠した。
僕は妙な空気を変える為に、結城さんの話を蒸し返した。

「僕にキスしたのは、その結城さんって男だよ」
「はぁ!?その30過ぎのオッサン!?」
「オッサンっていうか・・・」
結城の端正な顔を思い出して、僕は口ごもった。
「お前・・・それ、キスだけか?」
「押し倒された」
「やられたのか!?」
「やられてないよ。人が来て・・・」
お茶を継ぎ足そうと、台所に立つと、間宮が後ろに立った。
そうして、後ろから僕を抱きしめた。

「やられてないんだな!?」
「・・・やられてないよ。苦しいって」
「渚」
冷蔵庫の前に追い詰められた。
冷蔵庫に手をつく間宮。まただ・・・壁ドン・・・。

間宮の唇が、僕の唇に迫った時、いきなり玄関の扉が開いた。
「はい、そこまでですよ」
驚いてみると、結城さんの秘書の男が、そこにたっていた。

「無用心ですね。鍵くらい掛けて下さい」
男は可愛らしい顔で、にっこりと笑った。







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