「なにするんですか・・・!」

結城さんを突き飛ばすようにして、僕は叫んだ。
男にキスされた衝撃で、膝ががくがくと震える。
僕は壁にもたれて、なんとか自分を支えた。

「身体は言葉ほど嫌がってないようだが?」
「はっ?」
結城さんの冷徹な目が、僕の目を覗き込んだ。

「この程度じゃ、だめだということか」
次の瞬間、僕は絨毯の上に押し倒されていた。
魔術のようだった。木偶人形のように、僕はあっという間に絨毯の上に押し倒されて、結城さんは馬乗りになった。

「や・・・やめ・・・」
僕の声が掠れたそのとき、扉が開いて、男が入ってきた。
さっきとは違う男だ。上背があり、落ち着いている。

「結城さん、ちょっといいですか」
「・・・福本。これをみて、それをいうか?いいわけないだろう」
「三好、ですか。見つかったんですね」

その男も僕のことを三好と呼んだ。福本、例のスパイのひとりか。
結城さんは仕方なく僕から身体を離して、立ち上がった。
僕は安堵と羞恥で、真っ赤になった。

福本は、まるで何事もなかったかのように、話し始めた。
「例の会談が早まりそうです。結城さんの読みどおり、あの男が大統領になりそうですからね・・・」
「あの男には随分金をつぎ込んだ。なってもらわねば困る」
「忙しくなりそうです。結城さんも遊んでないで、会談の資料を読んでください」
「福本。俺は遊んでいたわけではない」
結城さんは僕を助け起こすと、

「なにか思い出したら、連絡をしろ。いいな」
噛んで含めるように、僕に言い聞かせた。
そうして、僕のジャケットに、名刺を一枚滑り込ませた。

<大東亜鉄鋼株式会社・会長 総領 司 090・・・>

見ると、そう印刷されていた。
僕は唇をかみ締めて、その部屋を出た。
連絡なんか、するものか・・・。僕はキスされた唇を触った。
結城さんの冷たい唇の感触が残っている。そんな気がした。








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