神永に連れられて向かった先には、立派なガラス張りの高層ビルがあった。

エントランスを入ると、透明なエレベーターがあり、神永はそこに入ると、53階を押した。最上階だ。
「そういえば、君の名前をまだ聞いてなかったな」
「的場渚です」
「おお、キラキラネームじゃん☆」
「女みたいで、嫌なんですけどね」
「芸能人みたいだ。田崎は芸能人だよ。プロのマジシャンだ。最初はホストまがいのことをしていたらしいけどね・・・ここだけの話だよ」
「へえ・・・」
名前が多くて覚わらない。
田崎、甘利、神永、小田切、実井、波多野、それから・・・福本だっけか。
「学生なのは僕だけ?」
「そうだね。君は僕の記憶より若いからな。18くらい?」
「19です」
「そうか」
外が丸見えのエレベーターはぐんぐんと空に上がり、やがて停まった。
「ついたよ」

「三好か」
立派な革張りの椅子に座ったその男は、予想より若かった。
結城中佐というから、てっきり老人をイメージしていたのに、男は30台前半くらいだった。ニヒルな感じで、唇に冷笑を浮かべている。
「つれてきました。積もる話もあるでしょうが、彼はなにも覚えていないんですよ」
「ほお?」
男はデスクに座ったまま、目で、座る様合図した。
来客用のソファに腰を下ろす。

「小田切と同じです。そのうち思い出しますよ」
神永が言った。
「随分若いな。幾つだ」
「19です。慶名大学の学生です」
「的場渚くんですよ。結城さん」
神永が言った。
「的場渚・・・か。いい名前を貰ったな、三好」
「僕、まだ信じたわけじゃないんです」
三好、三好と呼ばれるのに閉口して、僕は答えた。
「三好と呼ばれるのは不快か」

「いえ・・・本名よりはずっといいですけど。でも、僕が三好である証拠はなにもありませんよ。ただ、顔が似てるってだけで、つれてこられたんですから」
「君は三好だよ。俺が間違えるはずはない」
男はにこりともせずに、そう言った。













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