「僕・・・帰ります」

「実井」
結城さんが振り向くと、実井が、
「今日は泊まっていってください。余興がありますので」
奥の扉を開けた。

事務所の奥にはホテルのような豪華な部屋が設えてあった。
「仮眠室ですよ。結城さんが泊り込むとき必要ですからね」
実井が囁いた。

夜景が一望できるその部屋は、巨大なベッドが鎮座しており、まさに豪華ホテルのような装いだった。
結城さんらしくない・・・。その考えに僕ははっとした。
らしくない?どうしてそんなことがわかるのだろう。
「貴様のために準備したのだ」
僕の考えを見越したように、結城さんが答えた。
「間宮。帰ろう」
振り向くと、間宮が固まっていた。
じっと天蓋のついたベッドを凝視している。

入り口を実井が閉めて、鍵をかけた。部屋には結城さん、実井、間宮、そして僕。
「ポーカーでもするんですか?」
間宮が言った。
「そうだ」
実井が答えた。
「貴様は賭け事が好きだろう?佐久間さん」
「一体なにを賭けるんです。俺はなにも持ってきてませんよ」
「君たちから金をとろうなんて思ってないよ。僕らが賭けるのは、三好と寝る権利だ」
「なん・・・だと?」
間宮が唸った。
「心配しなくても、いずれ順番は回ってくるよ。僕らは三好が記憶を取り戻す為ならなんだってする・・・そう、なんだってね」
「いっそのこと、全員で寝たらどうだ?そのほうが早いんじゃないか」
間宮がとんでもないことを言い始めた。
「いい考えだな。あのカタブツの佐久間とも思えん」
結城さんが笑った。
「え・・・。間宮は冗談を言ったんだ。ね?そうだろ?」
僕が焦って間宮の腕を掴むと、間宮は顔を真っ赤にして、
「お前が誰かと寝るのを見るくらいなら、全員で寝たほうがましだ」
と答えた。
そのとき、僕は急激な眠気を感じて、視界を失った。
倒れこんだ僕を、力強い腕が、しっかりと抱きとめた。






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