1。 田崎と三好の場合。


「おー、いまから風呂か。三好」
甘利に声を掛けられて、田崎は怪訝な顔をした。
「なんの冗談?甘利。三好って」
「なにいってんだ?三好」
かみ合わない。
田崎は脱衣場に入ると、鏡に自分を映した。
そして、生まれて初めてくらいのショックを受けた。

「み・・・三好?」
自分が三好になってる。
顔も、身体も、少し小柄で、ナルシストの三好のままだ。
「・・・てことは・・・」
さっき、廊下で甘利と擦れ違った。
甘利は風呂あがりで、いまから田崎の部屋にいくはずだ・・・。

「なにをするんだ!」
田崎の部屋の入り口で、案の定、田崎と甘利がもめていた。
「どうしたんだ、田崎、中に入れよ」
「なんで僕が田崎の部屋に入らないといけないんだ」
「なにいってんだ?田崎。三好といい、今日はおかしいな」

やはり。田崎は息を呑んだ。そこにいたのは、田崎の顔をした、三好なのだ。
「待てよ」
田崎は声をかけた。
「・・・!」
三好は驚いている。当然、自分が田崎になっているのも気づいていない。
「ちょっと、こっちへ来い」
田崎は三好をひっぱって、三好の部屋に入った。

「僕の・・・偽物か・・・」
「それだけじゃない。俺は田崎だ。そして、お前は俺になっているんだ」
田崎は鏡を渡した。三好はそれを見て、息が止まるほど驚いている。
「なんだ・・・これは・・・悪い夢か?」
「夢ならいいがな。俺もさっき風呂に行こうとして、甘利に三好呼ばわりされて気づいたんだ。いつから入れ替わったのか知らないが、昼までは普通だったから、さっきだろうと思う」
「さっき・・・。それより、これから、どうする」
三好の顔が焦っている。
「気取られるな。下手をすれば精神病院送りだ。俺たちは入れ替わって、うまくそれぞれの役割をこなすんだ」
田崎が提案した。
「役割って、さっきみたいに甘利が迫ってきたらどうすればいいんだ」
「俺が何とか邪魔するから、しばらくそれで誤魔化そう」
田崎が言った。






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