僕の膝に包帯を巻いてもらっているとき、コンコンとドアをノックする音が響いて、教会の人が顔を出した。
確か、小田切さん、だったかな。後ろにも誰かいる。

「今、いいか?」
「ああ、入れ。哲二君。こいつは小田切だ。それと三好」
「ひどい怪我だな。こんな子供に・・・・・・」
小田切さんはそう言って眉をひそめた。
それから、手に持っていた浴衣を差し出した。
「君に合う服を探したんだがね、三好が浴衣を貸してくれたよ。着れるといいんだが・・・」

「君にあげるよ。それはもう小さくて俺には着られないから心配いらない」
心なしか小さくて着られないって言葉を強調したような気がしたが、この人の優しさをありがたく受け取った。
「こんなにまでしていただいて、本当に、ありがとうございます・・・!」
言いながら涙が滲んだ。
情けない。僕だってもう14になる。もっと大人にならなくちゃいけないのに・・・・・・。
すると、背中にふわっと暖かい感触がした。
見ると、隣にいた福本さんが、僕の背中を優しく撫でてくれていた。すべてを包み込んでくれるような彼の瞳に、僕は涙を止めることができなかった。

「それにしても・・・・・・」
三好さんがドアにもたれて腕組をしたまま呟いた。
「君はいくつなんだい?随分若いようだけど」
僕は涙を拭きながら、
「14に、なります」
と答えた。

「へぇ、14ね。結城さんが探してきたっていうから、どんな奴かと思ったけど、随分子供じゃないか」
「三好、哲二くんは真面目だし、仕事も早い。子供だからといって、失礼な口の利き方は慎め」
福本さんは僕を庇って、たしなめてくれた。

「そうだな、14といえば、もう一人前に、なんでもできるだろう。いつも寮の掃除や、風呂焚きなんかもきちんとこなしてくれているし、たいしたものだよ」
小田切さんも一緒にそう言うと、三好さんも、
「仕事ができないとは言ってないよ」
といって出て行った。
小田切さんは浴衣を福本さんに渡すと、福本さんの耳元で、
「本気じゃないだろうな?」
と呟いて出て行った。

何のことだろうか?
僕が疑問に思って福本さんを見ると、ドアの方を凝視したまま動かず、その表情も見えなかった。
「福本さん?」
呼びかけたけど、答えてくれなかった。

「あのぅ、どうかしたんですか?」
僕がもう一度声をかけると、漸く、
「いや、なんでもないよ」
といつもの優しい声で手当てを済ませ、浴衣を着させてくれた。浴衣は少し大きかったけど、帯で裾をあげて丁度良く仕上げてくれた。

「帰れるかい?」
「はい」
「辛かったら、明日は休んでいいんだよ」
「いえ、来ます。来させてください」
「じゃあ、無理はしないように。気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げると、まだ砂埃に汚れた革靴が目に入る。
「あの!お礼というわけではないんですが・・・・・・!」
思い切って聞いてみる。

「僕に、貴方の革靴を磨かせてくれませんか」




















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