身体の痛みに顔を歪めながら目を開けると、そこはどこかで見たことのある部屋の中だった。
?・・・・・・見回して、漸く思い出す。寮の中の応接室だ。
僕はソファの上に薄い毛布を掛けられて寝ていたようだ。
「ぃたっ!」
あいつらに蹴られた傷が痛む。腹を抱えながら起き上がると、下着でいることに気がついた。身体中に痣や傷ができていて、足からはまだ血が滲んでいる。
「畜生っ!」

恐怖よりも苛立ちが勝った。心底強くなりたいと思った。そうすれば、福本さんに迷惑を掛けることもないのに・・・。
そう考えていたとき、応接室のドアがノックされた。
「?は、はい・・・」
「起きたか?入るよ」

福本さんがすっとドアから顔を覗かせた。
「あ!福本さん!あ!あのっありがとうございました!」
僕は慌てて毛布から出ようとすると、福本さんは片手でそれを制止して穏やかに笑った。

「いいから、寝てなさい。ひどい怪我だよ。今、湯を持ってきたから手当てしよう」
「だ、大丈夫です!自分でできますから!」
こんなこと、福本さんにさせるわけにはいかない。
「いいから、ね。こんなときくらい甘えていいんだよ。少し染みるだろうが、それだけは勘弁してくれよ」
「・・・・・・ありがとう・・・・・・ございます」
「うん・・・」

福本さんは、桶に入った湯で手拭を濡らすと、ぎゅっと絞った。
ぽちゃぽちゃという音だけが応接室に響いた。音を聞いていただけで、身体が熱くなって、心臓が強く音を立てた。
「目を閉じて」

福本さんが頬に手を当てた。僕はそっと目を閉じると、額に手拭が当てられた。それから、左頬のきずにまた手拭が当てられると、ズキッとした痛みに思わず。
「んっ!」
と声が出てしまった。
「あ、すまない」

そういって手拭を話す福本さんに心配をかけたくなくて、とっさに、
「大丈夫です」
と言おうと目を開けると、すぐ目の前に福本さんの顔があった。
「・・・・・・!」

顔が一瞬で熱くなったのがわかる。僕はそのまま福本さんを見ることができなくて、俯いたまま、何とか、
「だぃじょ・・・ぶ・・・です」
と言った。
差し出された手に、震える自分の手を載せると、手拭で汚れを拭っていく。
じんわり広がる暖かさに、僕は痛みを忘れて身を任せた。
ぽちゃ・・・・・・ぽちゃぽちゃ・・・

何度もお湯で手拭を洗っては、福本さんは僕の身体を拭いていってくれた。
そうして傷跡が綺麗になるたびに、あいつらに触れられた跡も消えていった。
福本さんは、優しく、丁寧に、僕を清めていってくれた。
それから、ガーゼや包帯を取り出すと、手際よく手当てしてくれた。
変な話だけど、僕はその包帯をずっと巻いていたいと思った。





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