「んぅっ!」
誰かが呻いた。何が起きたの?
声がしたほうを見ると、背の高い男の人が立ってこちらを見ていた。
え?福本さん?
「誰だよお前!」
僕の上に乗っていた奴が叫ぶと、彼は隣にしゃがんで言った。
「いやぁ〜、今通りかかったらね、なんだか物騒な音が聞こえてきたからね〜。一体何をしてるの?警察呼ぼうか?」
「うるさいぞ!関係ないだろ!」
僕の口を塞いでいた手を離して、福本さんに殴りかかろうとしたそいつは、次の瞬間、路地の壁に叩きつけられていた。
「お前、なんなんだよ!」
最後のひとりになった奴が、声を震わせて叫んだ。
「うーん、なんだろうねぇ?雇い主、でもないし・・・」
そうのんびり考えている福本さんに、そいつはポケットからナイフを取りだして、襲い掛かった。
「あぶなっ!福本さん!」
一瞬福本さんの優しい顔つきが変わった気がした。
次の瞬間、ナイフを持った手は、福本さんによって、捻り挙げられていた。
「ぃたい!いたい!あぁ!」
叫ぶ男の隣で、いつものように優しげな福本さんが路地の外に向かって呼びかけた。
「こちらです。強盗は三人です。早く!助けてください」
助けなんていらないじゃないか!と僕は思ったけど、黙って成り行きを見ていた。
連中は警察に連れて行かれた。あっさりと。
「帰ろうか。魚はまだ食べられそうだよ、心配ない」
革靴には砂埃が少しかかっていた。
磨かせて貰えないかな、意識の淵で、僕はぼんやりそう思った。