「そうか、大尉が・・・」
「だが、俺は軍人だ、上官に逆らうことも、その力もないよ」

福本に事件のことを話すと、ふっと笑った。
「福本?」
「ああ、お前がそんなことを言うなんて。だが、心配いらない。この件は前から調べていた案件の中のひとつだからな、すぐに結城さんから手が回るだろう」
「そうか・・・」
ホッとした。
「・・・それよりもっと大事なことがある」

福本は俺に向き直ると、寝ていた俺の上に馬乗りになって両腕を押さえつけた。
「な、なにを・・・?!」
「小田切、貴様、どうして俺から逃げたんだ?」
「っ!」

睨みつける瞳は、恐ろしいほどギラついていて、言い訳も何もできないと思った。
それに・・・俺はその眼に弱いんだ。


「福本・・・。お前は優しい・・・」
「?」
「優しいから、いつか俺はお前の足手まといになると思ったんだ。友達のままだったら、お前はいつでも俺を切り捨てられる。そしていつでもまた利害さえ合えば会えるんだ。でも・・・」

深い関係になるほど、俺はもっともっとお前を求めてしまう。そして、いつかお前の足手まといになって苦しめてしまうに違いない。
両腕を押さえつけていた手の力が緩んで、福本の手は、そのまま俺の腕をなぞるように滑らせると俺の顔を両手の掌で包むように挟んだ。

「小田切・・・お前はばかだな・・・」
「な・・・っ!」
そのまま、口付けをしてまた見つめる。

「もう、随分と前から、俺はお前を切り捨てることなんてできなくなっていたのに、どうして気づかないんだ」
俺が口を開きかけると、福本はニヤリと笑った。
「それに、もうお前は俺から離れられない。知っているか?俺は酷い奴なんだ」
「え・・・?」
「わからないか?お前は、俺に、・・・」

福本はゆっくりと俺の首筋に唇を落として、それから、耳元で甘く囁くと、耳たぶを噛んだ。
「・・・っあぅ?!」

痛みは俺がここにいてもいいと言ってくれているようで、心地よかった。
もっと痛みを感じて、これが幸せな現実だと思い知りたかった。
吐息はだんだんと激しくなって、意識を飛ばすまでの間、俺の頭の中でずっと福本の言ってくれた言葉が巡っていた。

「お前は、俺に、・・・燃やされたんだ・・・」

恋人でも、友達でも、スパイ仲間でもない、協力者。
身体中が火のように熱くたぎった。
もっと<燃やして>くれ。

一生離れられないように・・・。













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