「うっ・・・んんっ」

暗い部屋の中に、声が響いて赤面した。
裏通りに会った安宿で、俺は福本に必死にしがみついた。

彼の薫りは、バーで飲んだような安っぽい酒と違い、全身に絡み付いて簡単に俺を動けなくさせてしまう。

彼の長い指が俺のからだの輪郭をなぞるように触れてくると、自分でもわけのわからないものがこみあげてきて、震えが止まらなくなる。

「小田切・・・」
優しい声でそう呼ばれた。
福本は、俺を飛崎とは呼ばない。小田切は仮の名だ。
それなのに、今は小田切と呼ばれるたびに心臓がドクドクと応えた。

「ぁ、ふくもと・・・っ」
もっと呼んでほしい。
「小田切、顔を」

そう言われて福本を見ると、ぐっと頭を掴まれて唇を塞がれた。そのままベッドに押し倒されると、苦しいほどの力で抱きしめられた。

福本、福本、福本・・・っ

もっと俺のからだをお前で壊してくれ。
他の余計なものは何も見られないように、お前以外は信じなくてもいいように・・・福本の声も手もなにもかもが優しくて、夢か現実か分からないほど理性が溶かされた。

福本の薫りに包まれて、俺は・・・福本と何度も熱を与え合った。




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