葛西を抱きそびれた。
一度目は、三好に阻まれ、二度目は、宗像に阻まれた。
葛西は知っていたのかもしれない。
つまり、邪魔が入ることも計算ずくで、俺に仕掛けてきた。
抱かれるつもりはないということ・・・。

だが、神永とのことを邪魔するつもりなら、少なくとも既成事実は作りたいはずだ。
単なる偶然か。
俺は、葛西を傷つけるためとはいえ、もう少しで葛西を抱くところだった。
だが、それは言い訳かもしれない。
葛西の分かりやすい誘いに、つい乗りそうになっただけなのかもしれない。

だが、乗ればどうなる。
葛西は、きっと分かりやすく脅してくるはずだ。
そこまでわかっていて、どうして・・・。
葛西に惹かれるのは、単なる性欲なのか、それとも。
潜む危険に、身を投じたいからなのか。

「まだこの店に来るんですか、あの男」
三好は顔を曇らせた。
「出入り禁止にするほどじゃないからな」
俺が言うと、
「僕の予想は筋違いで、本当は貴方に関心があるんじゃないですか」
と三好まで言った。
「・・・そうじゃないだろう。君たちの邪魔をしたいと自分で言っていた」
「そう認めたことがむしろ気になりますよ。何を考えているのか」
「ビールでいいか」
俺はビールをついで、三好の前に置いた。

「まさか、葛西に惹かれてるわけじゃないでしょうね?」
三好に言われてどきりとした。
「まさか。タイプじゃない」
「葛西はあの顔ですからね。入ってきたときは、一期生でも美形だって噂でしたよ」
「俺には神永で十分だ」
「その顔、殴られたんですか?」
ふいに、三好が手を伸ばして言った。
「酔客にね。よくあることだ。こんな場所じゃ」
と俺が言った。
「男前が台無しじゃないですか」
三好はにやりとした。
「男ぶりがむしろあがったろう?俺に惚れたか」
俺が軽口を叩くと、
「確かに最近、精悍になったと思いますよ。あの頃とは違ってね」
三好が珍しく優しい言葉をくれた。




inserted by FC2 system