ピチャン・・・。

水の音がした。
ひんやりとしたタオルの感触を額に感じて、俺は目を開けた。
覗き込んでいる顔は、葛西だ。

「気がつきましたか」
感情のない声。
「すみませんでした。宗像は乱暴で・・・」
「いや・・・」
殴られて、ひとつだけはっきりとわかった。
宗像が、葛西に惚れているということが。

「俺の部屋?」
地下の俺の部屋に運んだらしい。鍵は開いている。
「鍵が開いていたので、勝手に運ばせてもらいました。宗像が運んだんですけどね。反省してましたよ。合意があるとは知らなかった、と」

「合意・・・」
「僕が誘ったとは言いにくかったんですよ」
葛西は肩をすくめた。
「なぜだ」
俺は、顔の半分を手で覆いながら、尋ねた。
「なぜ、こんなことをする」
「僕にも責任はありますからね」
「そうじゃない・・・なぜ、俺を誘惑するんだ?」

「三好さんから聞いているんでしょう?僕は、あの二人を追い落としたいんですよ」
「それだけなのか」
俺はうなった。
「それ以上の感情があるのかもしれないし、ないのかもしれない。僕にも分かりません」
手の内のカードを見せながら、俺を翻弄していく。
気づいたら、カードはすりかわっている。
まるで手品だ。

「邪魔が入って好かったよ」
「負け惜しみですか?続きをしたいところですが、残念ながら宗像が上で待っています」
「彼は、あんたに惚れてるんだな」
「宗像が?それは誤解ですよ。彼はただ、こういうことが嫌いなだけなんです。潔癖というか・・・僕に惚れたりしませんよ」

葛西は可笑しそうに口元をゆがめた。



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