神永を最後に抱いてから、3ヶ月が過ぎていた。
神永からはなんの便りもない。
せめて、いつ戻るのかわかれば・・・。
だが、それは不可能だった。神永自身わからないに違いない。
半年か、一年か、あるいはそれ以上か・・・気が狂いそうだ。
神永とて、仕事でジゴロの真似事をして、関係者を落とそうとしているかもしれない。
女か、あるいは男か。
くだらない妄想が、俺を苦しめる。

俺はそもそも、文化協会のジゴロの講師だった。
あの学校では、ジゴロの真似事はスペックなのだ。
葛西たちも、別のジゴロから手ほどきをされたに違いない。
それを、俺に試しているのか・・・。
三好は、ただ神永や三好を傷つけたいがため、と言っていた。
葛西は、俺を攻略して、一期生の面子を潰せばいいのだろう。
それは、わかっていたが。
元ジゴロとしては、その意図的な恋愛の所作に、かえって興味がわく。
そこまでわかっていて、尚、俺に言い寄れるものだろうか。
もともと、恋の駆け引きが面白くてのめりこんだ道だ。
ジゴロは、頭の勝負だ。惚れたら負けの、簡単なゲーム・・・。

あれから、葛西は常に宗像を伴ってやってきた。
だが、ある日、再びひとりで店を訪れた。
「今日は、おひとりで?」
さりげなく尋ねたつもりだが、余計だった。
これではまるで、話したくてうずうずしていたととられても仕方ないだろう。
「さっきまで一緒だったんですが、そこで分かれたんですよ」
葛西は物憂げな目を俺に向けた。

「ちょっと喧嘩をしてしまって。彼、気づいてしまったんですよ。ここに来るのはコーヒーが目当てなんじゃないってことに」
「思わせぶりな言い方はやめてもらえませんか?話は三好から聞いています。あんたはただ・・・」
「あのひとは野暮な上におしゃべりですね。でも、僕の本当の気持ちは知らないと思いますよ」
葛西は、テーブルの上の俺の手の上に手を重ねた。

「僕は、構わないんですよ・・・このカウンターの上に押し倒されても」
葛西はネクタイを解き、背中をそらすようにして、カウンターの上にもたれかかった。
それを見たとき、俺は、自分の中で何かがぷつんとはじけたのを知った。
気づけば、葛西の唇を奪い、床に引き倒していた。

滅茶苦茶に傷つけてやる・・・
俺の中の獣が吼えた。能面のような仮面を剥ぎ取り、体中に痕をつけ、そして・・・屈服させる。それには、力づく抱くのが一番だ。
「葛西!」
運悪く飛び込んできた男がいた。
「貴様・・・!!葛西にっ」
強い力で殴り飛ばされて、俺はカウンターの端までふっとんだ。そして、壁に頭をぶつけた。

「宗像」
その名を呼ぶ葛西の声が聞こえたような気がしたが、俺はそのまま気を失った。








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