意外なことに、また次の日、葛西は仲間を連れて、店にやってきた。
やはり隅の席に並んで座り、コーヒーを注文した。

コーヒーが気に入った、という俺の考えは、あながち間違いでもないらしい。
それにしても、あんなことがあったあとでも、平然としているのは、たいしたものだ。
繊細な外見のわりに、面の皮が厚いのだろう。

ふたりでぼそぼそと話している。
「・・・貴様、もう、結城さんは諦めろ」
葛西の隣に座った、眉の太い、大きな目をした、いかつい軍人タイプの男は、そういった。
「宗像」
名前を呼び、葛西は細い目で軽く睨む。
相変わらず、細い眼に少年のような色気が滲んでいる。
「誰が落とすか賭けようっていったのは、貴様じゃないか。何を今更」
「ほんの冗談だったんだ。皆だってそうだ。だが貴様は」
「僕は冗談は好きじゃない。それに、今更やめられるか」

驚いたことに、結城さんを誰が落とすかで賭けているらしい。
若いとは思っていたが、本当にガキらしい発想だ。
あの結城さんが誰かに落ちるなんて、想像もつかない。
「神永と三好がいなければ、今頃・・・」
神永、の名前にどきりとした。
神永が、なんの関係があるというのだ。
「三好は結城さんにべったりだからな・・・誰かが引き剥がしてくれるといいんだけど」
「俺が?俺はそういうのは好かんな」
宗像と呼ばれた男はそう答えた。
「使えない奴・・・少しは協力してくれてもいいでしょう」
「悪いが、他をあたってくれ。それに、うまくいったとして、あとはどうなる?結城さんが本気にしたら?」
葛西は声を潜めて、何事か答えた。
だが、それは聞き取れなかった。

「なぜそうもむきになる?貴様らしくない・・・それとも・・・案外本気なのか」
宗像の言葉に、葛西は答えずに、カップを持ち上げてコーヒーを飲んだ。

俺には葛西の意図がわからなかった。
なぜ、こんな会話を聞かせるのだろうか。
これではまるで・・・煽ってるみたいだ。
それとも、そうなのか。
ジゴロである俺を落とす為に、こんなに回りくどい手段を使うだろうか。
昨日の夜、葛西は本気だったのだろうか・・・?

俺は、葛西と宗像の関係性について考察した。
そうして、葛西はともかく、宗像は葛西に惚れているのではないかと推測した。
あるいは、葛西は宗像の気をひきたくて、当て馬は俺のほうじゃないかとも。
そう思うと、わずかに心が疼いた。
俺はその気持ちを知っていた。嫉妬、だ・・・。馬鹿な。
男というものは、愛などなくても嫉妬は感じるものだ。
俺は自分にそう言い聞かせた。

俺は既に奴の術中にはまっているのではないだろうか・・・?







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