たまには違う店で飲もう。
そういって、俺は神永を別の店に連れ出した。

神永は何も知らないようだった。
だが、いずれ葛西は昨日のことを神永に告げるだろう。
葛西の話がどこまで本当でどこまで嘘なのか、わからない。
だが、葛西に告げられるくらいなら、自分で告白したほうがましだ。
それとも、黙っていてくれるものだろうか。
もし。
もしも、葛西が俺に本気なら・・・。
むしろ、告げるのは時間の問題だ。
なぜ、まだ伝わっていないのか、わからない。

「上の空だな」
神永が言った。
「え?ああ、すまん」
「なにか気にかかることでもあるのか?」
神永の無邪気さが、今の俺には痛い。
「少し疲れているだけだ」
俺は言葉を濁した。

「年だな」
神永が笑った。
「おっさんで悪かったな」
俺は水割りを呑んだ。
「おっさんでもいいよ」
神永がいい、少し俺の肩にもたれかかった。

珍しいこともあるものだ。
「ホテルに行くか?」
「いや、悪いけど風邪がまだ治りきっていないんだ。今日は帰るよ」
つれなく言う。
だが、怒ってるわけでも、拗ねてるわけでもなさそうだ。

「そうか・・・残念だ」
水割りの氷が割れて、カランと音を立てた。
「真島」
「なんだ」
「・・・いや、なんでもない・・・そろそろ行くよ」
神永は立ち上がった。






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