目を覚ましたとき、葛西の姿はなかった。
寝乱れたベッドがゆうべの激しいセックスの痕跡を残していたが、それ以外はいつもの朝だった。
足腰立たなくしてやるつもりだったのに、甘かったか。
だが、あれ以上・・・どうすればよかったのだろう。
俺はぼんやりと煙草を銜えた。
苦い後悔の味がした。


億劫だったが、店は2時に開けた。
日常が俺を癒してくれる。
真面目に働くようになって得た、日常という感覚。
だが、もう店を開ける意味も、ほとんどなくなっていた。

そう思った夕方、驚いたことに神永が姿を見せた。
「こんなはやくからやってるんだな。驚いたよ」
「神永・・・」
驚いたのはこっちだ。
二度と会えないと思っていたのに。

「風邪引いて、しばらく寝ていたんだ。情けないよな。身体が資本なのにさ」
「風邪?」
俺の噂を聞いて、怒っていたのではないのか。
だが、神永は何も知らない顔で、
「喉が渇いたな。安酒を貰おうかな」
といった。

どういうことだ。あの葛西の話、俺と神永を別れさせることが結城さんの卒業試験というネタは、すべて奴の作り話だったのか・・・?
だが、一体なんのために、そんな手の込んだ嘘をついたのだろう。
俺を怒らせて・・・そして・・・抱かせた。
言葉では抗ったが、あえて抵抗はしなかった。
キスも・・・。

「地下の扉、閉めてるのか?珍しいな」
「えっ・・・ああ・・・ちょっと・・・掃除中で」
「掃除なんかしないだろう」
「気分転換だ」
寝乱れたベッドはそのままになっている。葛西の匂いも消えていないだろう。
あんなものを見られたら、本当に神永とは終わりだ。
「女でも隠してるんじゃないだろうな?」
神永の冗談に、俺は引きつった笑顔を浮かべた。
「女?はは・・・冗談だろう・・・女にはもう興味がなくなったからな・・・」

だが、この程度の修羅場でうろたえていたのでは、ジゴロは務まらない。
俺は神永をどうやって店から連れ出すか、算段しはじめていた。




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