「結城さんはああいっていたが、本当のところはどうなんだ?俺じゃないのか」
小田切は真剣な眼差しを福本にぶつけた。

「・・・だから、あれはデマだ。俺が考えたんだ」
福本の胸倉を掴み、小田切は、
「だが、信憑性はある。結城さんに子供がいるなら、俺たちくらいの年だろうし、結城さんの性格を考えれば、子供をスパイに仕立てるのも無理はない。結城さんはD機関に命を賭けているからな。思えば、結城さんが俺をスカウトしたタイミングも良すぎたし、もしかしてはじめから俺をスカウトするつもりで・・・」
「落ち着け、小田切」
小田切の手を振り払い、福本はネクタイを整えた。
「前にも言ったが、可能性があるとすれば、俺は三好だと思う。あの二人は似ているからな」
「・・・だが三好じゃない。あの二人は・・・」
小田切は赤くなった。
「お互いが知らないと言うこともあり得る」
福本が言った。
そして、煙草を銜えて火をつけた。
「だとしたら、悲劇だがな」

「俺は親の顔を知らない」
小田切はベッドに座り込み、掌に顔を埋めた。
「知りたいか?」
福本は煙を吐き出して、物憂げに窓の外を見た。
冴え渡る冬の空に、ツバメが舞っている。
「それが、結城中佐ならどんなにいいか・・・夢見てしまったんだ」
「小田切」
暗い目をして、福本は言った。
「俺たちにとって、結城さんは親以上の存在だ。それで、充分じゃないのか」
「お前は特に結城さんに可愛がられてるから、そう思えるんだ」
珍しく小田切はひがんだことを言う。
「特に可愛がられてる?俺が?」
「少なくとも、一番信頼されているのはお前だろう」
小田切の恨めしげな声。

一番、信頼されてる・・・ね。

福本は、心の中で苦笑した。







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