「結城さん!!」

事務室のドアを思い切り開けると、中には結城さんだけではなく、福本もいた。

「葛西か。君で5人目だ」
結城さんの代わりに、福本が言った。
「5人目・・・?」
「結城さんの隠し子は自分じゃないかって申し出だ。神永、甘利、波多野、小田切が、自分はそうだと思い込んで、直談判しにきた」

「そんなに沢山・・・」
「特に波多野はしつこかったな。デマだと納得させるのに時間がかかった」
「デマ?嘘だというんですか」
「そうだ」
今度は結城さんが口を開いた。

「去年の貴様のように、俺に妙な感情をぶつけてくるものが多くてな。それで福本に相談したら、福本が隠し子の噂を流せば、皆自分と思い込むからそんなこともなくなるといって、それで噂を流させたのだ。まあ、貴様の登場も予測の範囲内だ」

「デマ・・・だったんですか・・・」

「黙っていようかとも思ったが、皆があんまり真剣に思い込んでいるから、還って害になると思ってね。それで、ねたばらしというわけさ。納得したか」
と福本が言った。


葛西がいなくなると、福本は、
「いいアイデアだと思ったのですが、少々大仰になりすぎましたね」
「デマごときを見抜けんようでは、D機関員は失格だ」
「ですね。それにしても・・・」
福本は真っ直ぐに結城を見下ろした。
「火のないところに煙は立たないものですよ。お父さん」

「やめろ。ここでは結城中佐と呼べ」
結城は苦い顔をした。

「隠し子が三好じゃなくて良かったですね。結城中佐」
福本はにやりとした。





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