「秋元が来ていたな。何を話してたんだ?」
「見てたのか」
田崎は苦笑して、
「噂をしてたんだよ。結城さんの隠し子は誰なんだろうってね」
「ああ。その話なら聞いた」
甘利は憮然とした顔をした。
「一期生じゃないだろう。きっと2期生だ」
「ふうん?そうかな。俺はてっきり・・・」
田崎は意味ありげに甘利を見上げた。
「俺?」
甘利は驚いた顔で自分を指差した。
「甘利は少し結城さんに似ているからね。女好きなところとか」
「おいおい」
甘利は嫌な顔をした。
「女にもてるのはお前のほうだろうが。妙なフェロモン出しやがって」
「フェロモン?」
「匂いだよ、匂い。外国製のコロンかなんかつかってるんだろ?」
「つけてないけど・・・」
「え?じゃあ、いつもするあの甘い・・・」
言いかけて、甘利は口を濁した。
「なんでもねえ。とにかく、隠し子は俺じゃないからな」
「残念だね」
「なにが。どっこも共通してないだろ?結城さんが父親なら、刺してしまいそうだ」
「物騒だね」
「こんな側にいて、知らん顔って納得できるか?」
甘利は息巻いた。
「さあ。なにか事情があるのかも・・・」
田崎は思案する顔になった。

「目を閉じろよ。キスできないだろ」
秋元が言った。
「本気なのか?」
「約束は約束だからな。身体で払え」
「下品な言葉を使うな」
秋元は壁に手を突いた。
「いいから」
目を閉じると、側に息遣いを感じた。
唇に何かが触れそうになったそのとき、
「なにをしてるんだ!」
宗像の鋭い声が、部屋に響いた。
目を開けると、宗像が秋元を投げ飛ばしたところだった。
「むなかた」
秋元の長身が、床に伸びた。
さらに馬乗りになり、秋元を殴ろうとする宗像の手を慌てて止める。
「やめろ!もういい!!」
宗像は野生の獣みたいに、ぎらついた眼差しを僕に投げかけた。
それがなぜか、誰かに重なって、僕をはっとさせた。

結城さん・・・。




















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