「ああ。そのことか。俺に協力しろって?」
秋元は面倒くさそうに前髪をかきあげた。

「貴様だって興味はあるだろう?田崎さんと仲もいいし、それとなく聞き出してくれ」
僕が言うと、
「隠し子ねえ。聞いた話じゃ、一期生じゃなくて2期生だと言う話だけど?」
「そんなのわからないだろ?2期生だとしたら、貴様か・・・宗像か・・・中瀬か」
「君かもね。葛西」
「きっと一期生だ。えこひいきだしな」
僕は決め付けた。
「はいはい。一期生ね・・・誰だろうな。背の高さからいくと、小田切さんか福本さん、あるいは甘利さんか・・・」
「背か。確かに結城さんは大男だからな」
「君が小さいんだよ」
からかうように秋元が言った。
「うるさい。とにかく、頼んだぞ」
「見返りは?」
「見返り?」
「俺を動かすんだから、なにか見返りがあってもいいだろう?」
「金か。いくら欲しい」
「金ね。まあ、金も悪くないけど」
秋元はにやりとした。
「キスひとつでいいよ」

秋元が戻ってきた。
「田崎さんの話だと、一期生には誰も親なんていないそうだ。つまり、全員容疑者ってことだな」
「本当か?」
僕は驚いて目を見開いた。
三好、実井、小田切だけでなく、福本、甘利、田崎、神永、波多野も親がいない。
宗像もそうだ。僕も・・・。
「貴様はどうだ」
「俺?」
秋元は表情を変えなかったが、わずかに顔に影が差した。
「ご明察。俺もお仲間だ。たぶん、中瀬も・・・」
D機関は全員孤児か。
全てを捨て去り、スパイになるほどの人間だ。訳ありなのだろうとは思っていたが、もともと捨て去るほどの家族さえ、持っていないというのか・・・。
僕は、D機関に入って新しい名前を貰った時の、不思議な安堵感を思い出していた。
ここは居心地がいい。
それは、誰もが居場所をここにしか持たぬ者たちの集まりだったからなのか・・・。

軽いめまいを覚えて、僕は立ち尽くした。












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