「本当はお前なんじゃないか?随分結城さんを気にしていたな」

宗像に言われたことが気になる。
僕は確かには養子だった。京都の老舗料亭の夫婦に貰われていた。
本当の親のことは、聞かされていない。
ふたりとも、本当の親として育ててくれた。
次男だったため、跡取りでこそなかったが、僕を帝都大学にまで入れてくれた。
だが、結城さんに初めて会ったとき、僕はなんだか懐かしい気がしたのだ。
時間が止まった気がした。
D機関に入り、葛西と名を変えて初めて、僕は居場所を得たのだ。
僕はうまれてはじめて、魂の安らぎを感じた。
全てを捨ててここに来て良かったと思ったものだ。

僕は部屋に戻ると、鏡を見てみた。
鏡。
僕の顔が映る。
切れ長の細い眼。朱い唇。色白の頬。
結城さんの顔は端正ではあるが、特徴がある。その特徴がどこかに出ていないか。
だが、しばらく眺めてみて、やがてため息をついて鏡を倒した。
だめだ。似ていない。似てなどいない・・・。
頬骨の輪郭線も、引き締まった口元も、鋭い眼差しも、神経質な指先も。
僕は自分の白魚のような指を撫でた。
どこも、似ていない。

だが、僕でないとすると、一体他に誰が・・・。
真っ先に浮かんだのは三好だが、三好は結城さんとできてるという噂だ。
いくら結城さんでも、実の息子に手を出しはしないだろう。
実井。
女のような顔をして、結城さんに纏わりつく目障りな存在。
だが、実井は色町で育ったそうだ。結城さんなら、実の息子をそんな目に合わせはしないだろう。
実井の、悪戯っぽい眼差しが思い浮かんだ。
実井は結城さんに色目を使う。結城さんも満更でもなさそうだ。
これも違うな・・・。
あとは小田切か。これもなさそうだ。

だが、他の学生たちも、過去は依然として謎に包まれている。
一度、調べてみるか。
僕は立ち上がった。









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