目を覚ましたとき、背中に誰かが張り付いていた。

起こさないように慎重に腕を外して、身体をよじる。
幸い、宗像は目を覚まさない。
さっきまで激しく自分を抱いていたのだ。疲れているのだろう。

まだ夜明け前だ。時計を見ると、4時前。
もうすぐ夜が明ける。

葛西は暗闇でも目が見える。
衣服を整えて、手首に時計をはめ、上着を羽織った。

いよいよ今日からドイツへ渡る。
期待で胸が高鳴った。

「う・・・ん」
宗像が寝返りを打った。
葛西は鋭い視線をそちらに向けたが、起きる気配はない。
宗像のことだ。
目を覚ませば、また自分を抱こうとするに違いない。
だがこれ以上は。
未練を断ち切るようにして、葛西は帽子を被った。

部屋を出て、旧式のエレベーターで階下に降りる。
フロントを抜けて、外に出ると、辺りは白み始めていた。

なぜ、宗像と寝たのか。
問われてもわからない。
ただ、求められるのも悪くはなかった。それだけだ。
ドイツに立つ前に、自分が生きていた証拠を、残しておきたかったのかもしれない。
宗像の記憶の中に。

柄にもなく、感傷的になっているな、と葛西は自分をおかしく感じた。
葛西には留学経験がある。
ドイツ語には困らないだろう。
だが、今度は留学ではない。異国に潜入するのだ。

自分の力を試すのに、これほどの機会があるだろうか。
知能だけではない、運も味方につけなければならない。

葛西は振り返らなかった。
太陽が長い影を作り出す中を、真っ直ぐに歩いていった。







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