「潜入先が決まった?」

「ああ。ドイツだ。来週たつ」


結城中佐の事務所に呼ばれて、指令を受け取った。
カバーは、真木克彦。ベルリンの美術商。

「知っていると思うが、先に三好が入っている」
結城さんは言った。
「同じ人物になりすますことで、敵を霍乱せしむるのだ。勿論、三好に何かあった場合の予備でもある」
三好に何かあった場合。
まるで、そうなる予定のごとくに、結城さんは言った。
「初任務だな」


部屋に戻ると、宗像に報告した。
一期生のほとんどが、既に他国に渡っている。
時期から見ても、いい頃だろう。
三好の代わり、というのがひっかかるが、三好は結城さんのお気に入りだ。
その代わりというのだから、まあ、我慢するとするか。

「どうした、変な顔して」
宗像は難しい顔をしている。
「いや・・・いざとなると、言葉が見つからない」
「何を言ってるんだ?貴様には関係ないだろう」
「関係ない?」
何気なく言った言葉だが、宗像は傷ついたようだ。

「関係ないだって?二度と会えないかもしれないんだぞ」
「大袈裟だな。僕がしくじるって?」
「自信過剰なところは相変わらずだな」
「僕の心配より、自分の心配でもしてろよ。貴様だって遠からず、どこかへ行くことになるんだからな」
「それはそうだが・・・」
宗像はふっと、皮肉な顔になり、
「お前、賭けに負けたな」
と言った。
「何の話だ」
「結城さん・・・落とせなかったろう」
「・・・」
僕は苦い顔をした。確かに、僕は結城さんを落とせなかったのだ。
「それで?僕は何をすればいい」

「ドイツに行く前の晩を、俺と過ごしてくれ」
宗像は言った。







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