だが、それは同時に敵を作ることでもあった。

僕は外国人なので、全然知らなかったのだが、ダニエルはキャンパスの有名人だったのだ。
文武両道、容姿端麗、おまけに貴族の家柄とくれば、人気が出るのも無理はない。
ファンクラブみたいな取り巻きはいるし、仲間とバスケットをしていても、黄色い声援が飛ぶ。
そんなダニエルが、謎の東洋人と行動をともにしているということが知れ渡ったのか、それともダニエルと同室であること自体がやっかみの対象なのかはわからないが、とにかく、しばらくすると、身の回りに不審なことが起き始めた。

ありていに言うと、物が無くなるのだ。
最初は置き忘れたのだろうと、気にしていなかったが、流石に度重なると、不審に思い始めた。
ダニエルに言うと、
「残念だけど、寮ではよくあることなんだ。気にするなよ」
という。
「君のファンクラブの仕業じゃないのか?」
と僕が言うと、
「まさか、そんなたちの悪いのはいないだろう」
といって取り合わない。
だが、わずかに眉間が曇った。
本当は、その可能性を否定しきれないのだろう。
「君だってその可能性を考えてたんじゃないのか」
そういって、部屋を出ようとした僕の手を、ダニエルが捕らえた。

「待てよ。だったらどうなんだ?友達を辞めるのか?」
「それは」
ふりほどこうとしたが、思いのほか手の力が強くて、ふりほどけない。
「離せよ。痛い」
低い声でそういうと、ダニエルは漸く手を離した。

毎日、きっかり一時間、ドイツ語を教えてもらった。
そのおかげで僕は、今では冗談も言えるくらいドイツ語が旨くなった。
外国語を習得するには恋人を作るのが一番、というが、それは友達でも同じだ。
楽しく語学を学べるほど、いいものはないだろう。

「誰も友達を辞めるなんて言ってないだろう?ただ、犯人を突き止めたいだけだ」
「そんなことはよせ。同じキャンパス内で犯人探しなんて、君を孤独にするだけだ。なくなったものは、俺が全部買い集めてやるから」

「そんなことをしてほしいんじゃない!」
僕は耐え切れずにそう叫ぶと、振り向きもせずに部屋を出て行った。







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