ふいに視覚が暗くなった。
いつの間にか瞼が下りて、目が開かなくなっていた。
僕は内心動揺した。

「あの船室で、田中と何をしていた」
耳元で囁く声。
「僕は・・・」

不思議なことに、何も言うつもりはないのに、口が勝手に言葉を発した。
「僕はあそこで、新見に抱かれた・・・」

「ほう?」
結城さんの声が、ふわりと変化した。
「確かに新見でしたか?僕ではなくて」
田中だ。
田中の声だ。

「その身体を投げ出して?新見を迎えたのですか?」
「新見は僕の服を脱がせると、ゆっくりと・・・」
僕の口は勝手にしゃべる。
僕は口を塞いだ。だが、口は尚もしゃべろうとする。

「ゆっくりと背後から挿入しました・・・そうして右手で胸を触り・・・」
僕は口の中に指を入れた。
これでもう、しゃべれない。
歯は指を噛み、血が噴出した。
それでも僕は、指を銜えたままだった。

目は閉じたまま視界が消え、口は勝手に話し出す。
自分の身体が誰かに乗っ取られたみたいだ・・・。
魔王。
その言葉が、思い浮かんだ。

「指を出せ。血が出ている」
声。
結城さんの声だ。
僕の指を口の中から取り出して、そっと口付ける感触がした。

僕の心臓は小さく跳ねた。
だが、視界が塞がれているので、実際は見えない。
幼子のように不安だった。

次の瞬間、壁に押し付けられて、唇を奪われた。
頭の芯が痺れるような、甘くて危険なキスだった。








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