「気がついたか」

冷たいタオルを額に押し当てられて、僕は再び目を覚ました。
田崎、だ・・・。
怒りがこみ上げてきて、ちょっと声が出ない。

僕が新見に嬲られている間も、どこかで見物していたのだろう。
そう思うと、羞恥と怒りで気分が悪くなるほどだった。

「動かないで。今、手錠を外すから」
ほぼ裸に向かれた状態で手足に手錠をかけられている僕を、田崎はなんでもないみたいに言い、手足の拘束を解いた。
屈辱、というのを通り越している。
気をつけないと、また失神してしまいそうだ。
田崎は僕に毛布を掛けた。

「怒らないで。多重人格の話が本当かどうか、確かめたかっただけだよ」
田崎は美しい眉をひそめた。
「君たちの会話を、俺は隣の部屋で聞いていた。新見の存在は真に迫っていたし、最後に失神した君を助けろと俺に泣きついてきたのは、君の言っていた聡子だろうと思う。わあわあ泣きながら、俺の部屋をノックし続けた。幼い子供みたいに」
「聡子は・・・実際幼いんですよ・・・」
目の前に酒の入ったグラスを差し出して、田崎は、
「飲んだほうがいい。身体が温まる」
といった。
僕は起き上がると、グラスを干した。浴びるほど飲みたい気分だ。

「田中は、貴方が隣にいたのを知っていたわけですね」
僕が言うと、
「みたいだね。彼、見かけと違って優秀な工作員だな」
田崎は肩をすくめる。
「全部演技だとしたら?新見も、聡子も、田中が作り出した幻影かもしれない」
「だとしたら、俺が結城さんに報告できることはなにもなくなる。君の犠牲も無駄になるな」
「僕の犠牲・・・」
新見は手足を拘束された自分を散々なぶりものにした。体はその痕跡をとどめていて、起き上がるのも辛いほどだ。身体の中が火箸を差し入れられたように熱い。
「僕はD機関では嫌われているから好きにしていいって、貴方が言ったんでしょう?」
「田中を餌に食いつかせるためにそういっただけだよ、本気じゃない」
田崎は僕の額を冷たい手で触った。

「熱があるな」





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