君がここにいること自体、結城さんには刺激になる。

そういわれても、ぴんとこない。

「まるでここにいることが悪いみたいですね」
不服そうに僕が言うと、
「悪いよ。結城さんの気が散る」
田崎はそう答えた。

「言いがかりはやめてください。僕は任務で」
「わかっているよ、君の意思じゃないことくらい」
田崎はコインを投げると、手の甲で受け止めた。
「どっちだ」
「表」
「残念。裏だ」
田崎はコインをつまんで、
「物事には裏と表がある。表は三好、裏は君だ」

「三好先輩に似てるから採用されたことくらい知ってますよ」
「そう?それなら話は早い」
田崎の指先から鮮やかにコインが消えた。
代わりに一枚の封筒を手にしている。

「なんです?」
「結城さんから。君に」
「結城さんから?」

受け取った封筒を破ると、中から列車の切符が出てきた。
ケルン行きの往復切符だ。随分な長旅になる。出発は半月後だ。

「ケルンで結城さんが待っている。駅に着いたら、使いのものが車を待機させている。何も心配は要らない」
結城さんの名前を聞くだけで身体が熱くなるような気がする。
僕はどうかしてしまったのだろうか。
あの夜から、何かがおかしい。
「どうした?頬を赤くして、幼子のように震えているね」
「なんでもない・・・少し気分が・・・」

お前は葛西ではない。お前は三好だ。

あの声は誰だ?あの声は・・・。

目の前が暗くなり、僕は気を失った。









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