公園のベンチでひとり、座っていた。

春だというのに、冷たい風が吹いている。景色はグレイだった。

ダニエルが死んだ。

そう聞かされても、実感は湧かなかった。
明るい青い瞳、少し癖のある金色の髪。全てを従えるアポロンのようだった彼が、色を失い、冷たい土に埋められて、永遠の眠りについた。あの猫のように。
どうして、そんなことが信じられるだろう。
僕の、たったひとりの友達だった。
あの時。
彼を受け入れていれば、彼は戦場へなどは行かなかったのだろうか。
僕が彼の手を冷たく振り払ったりさえしなければ。

医学。
なんのための医学だろう。
そんなものをいくら勉強しても、彼は甦りはしないのだ。
無意味だ。全て、僕がここにいることさえ。

テストは白紙で提出した。
僕はもうベルリンに残るつもりはなかった。
軍隊でも入って、それで・・・。
僕は顔を覆った。

「囚われるんじゃない」
背後から声がした。日本語だった。

いつからそこに立っていたのか、痩せぎすの背の高い紳士が、ベンチの後ろに立っていた。およそ気配はなかった。
一瞬、なにかの影なのかと思ったくらいだ。
逆光で顔は見えない。
「人は何かに囚われると、途端に見違えるほど弱くなる・・・」

「貴方は?」

「君に向いている仕事がある。なに、簡単な仕事だ・・・」

「仕事?いえ、僕は仕事を探しているわけでは・・・」

「君が探さなくても、私が君を探していた」
紳士は言った。
「そして、見つけた」









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