「すまなかったな。まさかミゲルが・・・」
ダニエルは謝った。
「でもどうしてお前は犯人がミゲルだとわかったんだ?最初から目星をつけていたろう」
「彼はいつも愛想が良かった。とても」
僕は答えた。
「だけど嫉妬に塗れた視線というのは、肌でわかるものだよ」
「嫉妬は緑色の目をした魔物、か。シェイクスピアだな」
ダニエルは言った。
「僕もいけないんだ。どこの馬の骨ともわからない日本人のくせに、君を独占してるんだからね」
「独占?」
「君がそんなに人気者だって知らなかったんだ」
「そういうところも新鮮で良かったよ」
ダニエルは僕を小突いた。
「子ども扱いするなよ」
「君は実際子供みたいだ」
「うるさいな」
ダニエルの手を振り払った途端、バランスを崩して倒れそうになった。
そこを、ダニエルが抱きとめた。
「え」
キスができるほどそばに、ダニエルの顔がある。
僕の心臓は小さく跳ねた。
「・・・大丈夫か」
「あ、ああ」
「ユウ。俺は・・・」
「もう戻らないと」
僕は急いで言った。
ダニエルの胸を押しのけて、立ち上がった。
キス、されるのかと思った。
そんなことを考える自分が恐ろしかった。
ダニエルは異国でできたたったひとりの友達だ。
それを失いたくはない。
部屋を出るとき、ダニエルの寂しげな瞳が、視界の隅を過ぎった。