「ミゲル。入るぞ」

ノックもせずにドアを押し開けて、ダニエルと僕はミゲルの部屋に入った。
ミゲルは、ダニエルのファンクラブ、もとい、親衛隊の隊長だ。
金髪に巻き毛の、天使みたいな顔・・・。
少年合唱団にいそうなタイプだ。

「ダニエル。なんですか」
「これ、お前の仕業だろう?」
ダニエルは殻の箱を投げつけた。猫の死骸が入っていたプレゼントの箱だ。
ミゲルは驚いている。
「なんです?なんのことですか?」
「とぼけるな。猫の死骸が入っていた」

表情の読めない青い目をして、ミゲルは僕とダニエルを交互に眺めた。
「僕だという証拠でもあるんですか?」
「カードがついていた。これだ」

親愛なるユウ・スナガ。
そう書かれたカードを、ダニエルは差し出した。

「よくあるカードですね。文字もタイプだし」

「だがタイプに特徴がある。Dの字がかすれていて、Sの字が欠けている。お前のタイプと同じだ」
「僕の?」
「お前はよく手紙をくれていたからな。それと比べたら一目瞭然だ。同じタイプだ」
「僕を疑うんですか?親衛隊隊長の僕を?」
ミゲルは無邪気な笑顔を向けた。
幼い子供のような、あどけなさの残る顔だ。
だが、ダニエルの顔は仮面のように硬化していた。

「俺だってこんなことは嫌だ。だが、疑惑を放っておくわけにもいかない」

ダニエルが合図をすると、親衛隊が一気に部屋になだれ込んだ。
ミゲルを拘束して、部屋の本棚を手始めに、探し物を始める。
探しているのはもちろん、僕の失くした私物だ。
ひとつでも見つかれば、それが証拠になるだろう。

ミゲルが怪しい、と僕が指摘した時、最初ダニエルは信じなかった。だが、タイプの文字の特徴を指摘すると、漸く納得して、ミゲルの部屋の捜索に乗り出したのだ。
問題の品は、ほどなくして見つかった。
皮手袋、手帳、羽根ペン、インク壷、吸い取り紙・・・これといって特別高価なものではないが、僕にとっては大事な品々だ。特に手帳には、日記のようなことも書き込んでいたから、見つかってほっとした。

ミゲルは親衛隊隊長を降ろされたほか、1週間の停学になった。
僕はそれで十分だと思った。
猫の仇は取れたと思う。








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