「人間を誘惑する為だけにいるんだから、見たこともないくらい綺麗だよ」
「誘惑して性交するのか?」
「イエス」


ランスの予測は外れた。
夢に現れたサキュバスは、見たことのある顔だった。

「うわあああああ」
悲鳴を上げて飛び起きた。
心臓がばくばくする。
ランスの嘘つき。
よりによって・・・。
俺は時計を見た。午前5時。まだ夜明け前だ。
もう一眠りしたいところだが、眠れそうにない。
俺は眠るのを諦めて、ベッドから起きだした。

「どうかしたの」
なぜか、キッチンにランスがいた。
「お前こそ、こんな時間になにしてるんだよ」
「時間?ああもうこんな時間か」
「また読書でもしてたんだろ」
「いや、考え事」
「考え事?何を考えていたんだ」
「いろいろ」
曖昧に答えて、ランスはテーブルに突っ伏した。

「おい、寝るならベッドに行けよ」
「叫んでた」
「あ?」
「君、さっき部屋で叫んでたね」
「・・・なんでもない」
「そう。ならいいけど」

お前の夢を見たんだよ。
そう言いたかったが、言わずに飲み込んだ。

見たこともないくらい綺麗なお前が、俺の上に乗ってきて、性交を迫った。
全裸で、二つの大きな乳房が目の前にある。
俺は手を伸ばして、その乳房に触れようとした。

もう少しで俺は、お前とやるところだったんだぞ。
よくそんなところで眠れるな。

「見たの?」
俺の心を読んだかのように、ランスが言った。
「悪魔」
テーブルに突っ伏したまま、目を閉じたままで。
「見たよ」
「どうだった?」

「・・・お前の言うとおり、見たこともないくらい綺麗だったよ・・・」

アレは俺の願望なのだろうか?
それともお前の化身だったのか。
「ランス」
呼びかけても返事はない。

思い切って、もう少し進んでみれば良かった。
そうしたら、何かが変わったかもしれないのに。

そんな風に思う自分に嫌悪を感じながら、俺はランスの小さな頭を見つめていた。



end


































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