「真島となんかあった?」

店の中に入ると、田崎さんが僕の顔を見るなり言った。
<D>。黒い扉の左右にある小人の置物は、相変わらず憎らしい顔つきだ。


「真島は・・・真島は・・・」
僕は昨日の出来事を田崎に説明した。
真島が僕にキスをしたこと・・・。
裸にして絵の具を塗りたくり、勝手に卒業制作にしようとしたこと。
田崎は黙って聞いていたが、
「それで、君は何が不満なの?」
と尋ねた。
「えっ・・・だってひどくないですか?すきでもないのに、キスなんて・・・」
「意味のないキスはないよ」
田崎は言った。
「他意はないって、言ってました。意味なんかないんですよ・・・どうでもよかったんだ・・・僕のことなんて・・・」
「みのる君」
カウンター越しに、田崎は僕の顎を捕らえた。
「じゃあ、俺としてみる?意味のないキス」
「えっ・・・」
田崎の綺麗な顔が僕に迫る。
僕は思わず目を閉じた・・・。

と。
「波多野!!!」
扉が開いて、真島が飛び込んできた。
「ま、真島」
「なにやってんですか!田崎さん!!」
田崎はニヤリとして、僕の顎から手を離すと、
「なんでもないよ。他意はない」
「他意はないって・・・!!」
真島はかあっと赤くなって、今度は僕を睨んだ。

それから、ずんずんと近づいてくると、徐にがばっと地面に這いつくばった。
「頼む!!波多野!!俺に協力してくれ!!なんでもするから!!」
「真島」
他に誰もいないとはいえ、土下座されるのは決まりが悪い。
「やめてよ・・・土下座なんて・・・僕、困る・・・」
「頼む!お前しかいないんだ。俺が描きたいと思える相手は・・・!」
額を地面にこすり付けて、真島はひたすら頼み込んだ。
「描かせてやったら?真島がここまで言うなんて、よっぽど惚れられたんだね」
田崎が言った。
惚れられた・・・?どういう意味だろう。
「やめてよ、真島、わかった。わかったから・・・」
「本当か!?」
がばっと身体を起こして、真島は爛々と眼を輝かせた。






















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