「波多野!!!」

学食中に聞こえ渡るような声で、振り向いた。
真島だ。
ひどく激昂している。

えっ?怒りたいのはこっちなんだけど!!
「お前、勝手に帰りやがって、せっかくいいとこだったのに、なに考えてるんだ!!」
「なっ・・・」
僕は頭ごなしに怒鳴りつけられて、カチンときた。
「なに考えてるのかなんて、こっちのセリフだよ!あんな、あんなひどいことしておいて・・・!!」
「ひどいこと?」
真島は意外そうに、僕を見つめる。
え、自覚ないってこと?
「わからないの?僕を・・僕を裸にして・・・絵の具塗りたくって・・・おまけにキスしたろ!!」
「馬鹿!!」
真島は慌てて僕の口を塞ぐと、左右を見渡した。
周りの学生が、何事かと驚いてこっちを見つめている。

「デケー声だすなって。あれは・・・あれはだなぁ・・・なんでもねえよ!」
なんでもない?なんでもないのに僕にキスしたっていうのか。
「それより、お前を卒業制作で使いたいんだ。材料を買いに外に出たらお前は消えてるし、せっかくいい塩梅に色がついてたのにな・・・まあいいや、おんなじポーズをしてもらえば、もう一度」
「ちょっと待って?卒業制作って?僕をどうする気?」
「お前の絵を描きたいんだ。初めて会った時から綺麗な体つきだなと思ってたんだけど、脱がせてみたら予想以上でさ。俺、あんなに興奮したのはうまれてはじめてだ。それで思わずキスしちまったんだよ、他意はねーよ」
他意はない・・・。
僕はその言葉に傷ついて、思わず黙り込んだ。

「卒業制作のモチーフが決まらなくて困ってたんだ。描きたい絵がなくてな・・・画家としては終わりなんじゃないかと思ってたんだ。でも、お前と出会って俺は・・・」
「断る」
僕は、思い切り冷たく、真島を突き放した。
「え・・・波多野・・・?」
「裸の絵を描かれるなんてごめんだよ。皆に見られたら恥ずかしいし、ママがなんていうか・・・」
「過保護。ママから離れろよ。いい機会だろ?」
「悪いけど、僕はママのほうが君より大切なんだ。だから」
思わず言葉に詰まったのは、真島が傷ついた目をしたからだ。
「だから・・・さよならっ!」
僕は、後ろを向いて、思い切り走り出した。
























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