「それに、俺はこう見えても女にはもてるんだぜ?お前に貢いでもらわなくても間に合ってるよ」

これみよがしにロレックスを見せびらかしながら、真島は言った。

店を出ると、真島は僕の手を引いて、自分のアパートに連れて行った。
ボロボロのビルの7階にあるその部屋は、エレベーターも故障していて、階段をひたすら登るしかなかった。
真島は鍵を開けた。
電気をつけると、大小さまざまなカンバスでいっぱいの、コンクリートむき出しの部屋があった。床には絵の具が散らばっていて、油の匂いが染み付いていた。
「こっちはアトリエなんだ」
真島は自慢そうに胸を張った。
だけど、ほとんど倉庫みたいな部屋に寝泊りしている真島が気の毒になった。
「ひとり・・・暮らしなの・・・?」
「当たり前だろう。俺は天涯孤独なんだ。ちょ、なんだその気の毒そうな目は!やめろ!」
「だって・・・さみしいでしょう・・・?」
「あのな。こっちからしたらいい年こいてパパとママに囲まれてるお前のほうがよっぽど可哀相なんだよ!可能性を殺されていることに気づけ、馬鹿!」
可能性を殺されている・・・?
「刑事のパパに専業主婦のママに、どうせペットに犬でも飼って、絵に描いたような幸せな家庭、普通の普通の普通の家族を演じてるんだろう?反吐がでねえか?そうゆうの!」
反論しようとして、僕の唇は震えた。
「あ?なんだ?なんか言いたいなら言えよ」
「・・・うちは・・・普通の普通の普通の家族・・・なんかじゃ・・・ないよ」
僕はママの顔を思い浮かべた。それからパパの顔も。
パパはママを「実井」と呼ぶ。ママはパパを「波多野さん」と呼ぶ。
「・・・うちのママは・・・本当は男なんだ。凄く綺麗だけど、そうなんだ。だから・・・」
「お前、養子だったのかよ」
真島は驚いている。

「そうなんだ。僕、本当の子供じゃないんだ・・・」
誰にも言わなかったのに、真島には話してしまった。
真島の境遇が、僕に似ていたからかもしれない。
真島なら判ってくれるような気がして、僕は・・・。
「それでお前、そんなに自信なさそうに、おどおどしてるんだな・・・波多野。波多野?おい、寝たのか?」
急激な眠気に襲われて、僕は倒れこんだ。
いつもならママがひきずってベッドに連れて行ってくれるんだけど、このとき僕を受け止めたのは真島で、真島は両腕で僕を抱き上げて・・・奥の部屋に連れて行った。
僕は完全に眠くて、意識が朦朧としていたけど、ひとつだけわかった。
真島が、僕の唇にキスをしたこと・・・。
僕はそのまま眠りに落ちていった。

























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