「君、バイトの経験とかはなさそうだけど」
田崎が言った。

「あ、ありません・・・」
「その年でね。過保護なんだね」
田崎はくすりと綺麗に笑った。
僕は馬鹿にされたと思って、かあっと身体が熱くなった。
「やめたのはディーラーだけど、いきなりカード捌きは出来ないだろうから、最初はまずこれに着替えて」
渡されたタキシードのズボンには白い尻尾がついていた。
「まずはバニーからだよ。お客様に飲み物、お出ししてね」
「ば、バニー・・・」
「これが耳。あ、似合う似合う」
田崎は兎の耳を俺につけると、うんうんと頷いて、
「波多野・・・君だっけ?珍しい名前だよね。お父さんはなにしてるひと?」
「刑事です」
「へえ」
田崎は少し口をゆがめた。
刑事にいい印象を持っていないのだろう。
「うちは違法カジノじゃないし、この辺りじゃわりと有名な店だから、別に後ろ暗いところはないけど、トラブルは困るな。聞かなかったことにするよ」
「す、すみません・・・」
「波多野とは呼びづらいから、みのる君でいいかな?」
「は、はい」
「そんなに緊張しないで」
田崎は笑いながら、
「君、悪いこと言わないから、真島とは仲良くしないほうがいいよ。あいつも悪い奴じゃないんだけど、苦学生で、生活費をギャンブルでまかなってるから、いつも借金だらけだし、一歩間違えば東京湾に浮かぶかもしれないから」
怖いことをさらりと言う。
「まあ、12の時からこの街で生きてきた真島と、純粋培養のお坊ちゃんじゃ、話も合わないとは思うけどね。それに」
田崎は声を潜めて、
「真島の親は、真島が赤ん坊の頃に殺されたんだ。この辺り一帯をしきるヤクザの幹部だったんだけどね。真島は君と違って苦労してるから、けして人を信用しないし・・・君のことも金ヅルくらいにしか思ってない筈だから、なにも期待しちゃだめだよ」
人差し指を口に当てて、そう嘯いた。
金ヅル・・・。
僕は信じられなかった。
真島の陽気な声が、笑顔が、今聞いた話とは結びつかなかった。






















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