真島に連れて行かれた場所は、新宿の地下だった。
階段を降りていくと、黒い扉があり、小さく<D>と彫り付けられていた。
たぶん、それが店の名前なんだろう。

扉の左右に、よく園芸店に置いてあるような小人の置物があった。小人の癖に凄くマッチョで、憎憎しげな顔つきだ。

扉を開けると、ガラン、と音が鳴った。

「田崎さん。いる?」
真島が声をかけた。
中は普通のショットバーなのかと思ったら、様子が違う。
大きなテーブルが中央にあり、ルーレットがあった。カジノだ。

「真島君。その子は?」
店の奥から声がした。
カーテンの裏から姿を現したのは、顔立ちの凄く綺麗な黒髪の男だった。
背が高く、凛としていて、ちょっと年齢不詳だ。
「ほら、誰か辞めたっていってたから」
「ああ、バイトを連れて来てくれたんだね」
言葉つきがひどく優しい。
真島は僕をつついて、
「波多野、ほら、挨拶しろ」
と言った。
「波多野・・・?へえ・・・よくある名前じゃないのに・・・」
田崎は意外そうな顔で、僕を無遠慮に眺めた。
「波多野・・・みのる・・・です・・・帝大文学部4年、です・・・」
「文学部?真島は芸術学部だろ?どんな知り合い?」
「えっと・・・」
その時、真島はがっしりと僕の肩に腕を回して、
「俺ら運命の出会いをしたばっかなんですよ!田崎さん。俺の分までこいつが働きますから、面倒お願いします!」
「なるほど。こないだのツケをチャラにして欲しいってことだね」
「こいつが身体で払いますんで」
「え?ちょ、ちょっと・・・」
会話についていけず、戸惑っていると、
「いいよ、この子、可愛いしね。使えるんじゃない?」
田崎さんはにっこりした。

「俺は徹夜で卒業制作しなきゃならないんだ。俺の顔を潰さないように、しっかり働けよ」
真島はまた、俺の頭をぽんとはたいて、軽くウインクすると、店を出て行った。



















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