<このお話は、「波多野の赤ちゃん」の22年後です。>


「波多野」

学食で突然名前を呼ばれて、目を上げると、おおきなカンバスを抱えた男が僕を見ていた。

「え・・・と・・・どなたでしたっけ・・・?」
「芸術学科4年の真島だよ。さっき会ったろ?」
「さっき?」
「絵の具拾ってくれたじゃん」

ああ。さっき校庭で絵を描いてたひとか。絵の具が落ちてたから渡したんだっけ。
顔はよく見てなかったからな・・・。

「なに、お前、弁当?すっげー3段弁当だ!ママがつくんの?」
真島は僕の向かいの席に座った。
確かに僕の弁当は3段で、重箱に入っている。
毎朝、ママが持たしてくれるいつもの弁当だ。
ふいに、真島の腹が鳴った。
「・・・おなか、空いてるんですか?」
おそるおそる僕が尋ねると、真島は眼を輝かせて、
「くれんの?」
と言った。
「いいですけど・・・」
「じゃあ。そのから揚げ」
真島が指を刺す。僕はそれを箸で刺して、真島に差し出した。
「あ〜ん」
真島はから揚げを口に入れると、
「うまい!」
と叫んだ。

「そうですか?いつもと同じですけど・・・」
「かー!贅沢!!っつーか、過保護!お前、毎日こんな贅沢弁当食べてるの?」
「そ、そうですけど」
「お前ね〜、世界でどれだけの子供が飢え死にしてると思ってるの?お前みたいな過保護がいるから、世界はちっとも平等にならねーんだよ!!」
「び、平等?」
「玉子焼きもくれ」
真島は今度は玉子焼きを指差した。
「どうぞ」
僕が差し出した玉子焼きを、僕の手を掴んで口に押し入れると、真島はもごもごしながら、
「お前、どうせ就職も決まってねーし、バイトもしたことないんだろ?玉子焼きのお礼に、俺がいいバイト紹介するから」
バイト?
確かに僕はバイトもしたことがない。だけどママがなんていうか・・・。
「ママには言うなよ」
真島は俺の頭をぽんとはたいた。





















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