パトカーで家に送ってくれたあと、波多野は言った。

「なにか思い出したら、連絡をくれ。間違っても訴えるんじゃないぞ」
そうして名刺を渡した。

巡査。波多野幸太・・・ハタノ・コウタ、か。


身体の奥が痛い。
引き裂かれるような痛みだ。
僕ははいずるように階段を上って、二階にあがった。
ベッドの上に横になり、携帯を見ると、木田からいくつもメールが入っていた。
<大丈夫か?>
<なにしてる?>
<連絡をくれ>

心配している。それはそうだろう。木田を置いて、パトカーに乗ったのだから。
それであんなことになって、明日どんな顔をして木田に会えばいいのだろう。
<大丈夫。送ってくれただけ。もう寝る>
すぐに返信が来た。
<そうか、なら良かった。あいつ、変な警察官だったから、心配した>
確かに変態だな。
あの場にいたのも偶然とは思えないし・・・ストーカーかも。

でも、波多野が名刺をくれたとき、僕は嬉しかった。
ただのやりすて・・・とかじゃなくて。また会う気があるってことに。
メアドもついている。メールすることもできるんだ・・・。

少し迷ったが、メールすることにした。
<送ってくれてありがとうございました。小田切京介>
しばらくして、返信が来た。
<ああ。>
それだけ。あまりのそっけなさに、なんだかいらつく。
<家についたんですか?>
<今日は宿直だ>
<そうですか。大変ですね。ご苦労様です>
<嫌味か?お子様はもう寝ろ>
あんなことをしたくせに、人を子供扱いするなんてひどすぎる。
<おやすみなさい>
<おやすみ>
物足りない気がしたが、そこで会話は終わり。
もっと、話したい。もっと・・・。波多野のことを知りたい。
波多野の皮肉げな顔が、空中に浮かんでは消えた。チェシャ猫みたいに。




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