「急に大人しくなったな」

探るような目つきで、波多野は俺を見つめた。

「僕は貴方を知っているのかもしれない。そんな気がして」
「君は俺を知っていると思う。ただ思い出せないだけで」
「それは知らないのと同じでは?」
「違う」
波多野は僕の髪を撫ぜた。
「すぐにわかる」

狭い車の中で、波多野は僕を抱いた。
僕は抵抗するのを止めて、流れに身を任せた。
男に抱かれるのは初めてだったけれど、違和感はなかった。
僕の身体は男を受け入れるように出来ているらしい。
身体を貫く痛みに悲鳴をあげながらも、僕は波多野を求めていた。
16年間生きてきて、はじめて生きているといえるような気がした。

思えば、初めて僕にキスをした、王子役の少年は、少し波多野に似ていた。

「思い出したかよ?」
行為が終わると、波多野はそう尋ねた。
僕は静かに首を振った。波多野の目が翳った。
「早々に思い出してくれないと、俺は未成年に対する性的暴行で訴えられるな・・・」
「その手がありましたか」
「てめ、性格悪いぞ」
「これで、波多野さんは僕の言うなりですね・・・」
僕がそういうと、なぜか波多野は嬉しそうに目を輝かせた。
「なんです?」
「実井だ。今のセリフ・・・奴が言いそうなことだ。お前はやっぱり実井なんだよ!」
僕の肩を掴み、激しく揺さぶった。
「だとしたら、その実井と言う人は、かなり性格歪んでいますね」
「お前は実井だ!間違いない!」

波多野はそういって、僕を強く抱きしめた。
波多野は実井が好きなんだ。
そう思うと何故か心の奥がちりちりと痛んだ。






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