「ただのクラスメイトには見えなかった」

「どういう意味ですか」
「お前、男だったんだな・・・こないだ会った時はコンパだったし、女装してたから気づかなかったけど。・・・実井も女装は得意だったよ」
「実井?って誰ですか」
「お前にそっくりな奴・・・」

ふいに波多野は車を停めて、僕のほうを見た。
「俺のこと覚えてない?」
「なんのことですか。僕はこないだのコンパではじめて貴方に会っただけで・・・」
言いながらも違和感を覚えた。
そうじゃない、僕は、この垂れ目を知っている・・・。

波多野の顔が近づいてきて、気づいた時には唇を塞がれていた。
柔らかく滑らかな舌が、口の中に入り込んでくる。ひどくあまい。
キスを、しかも男にされていることに対して、動揺した。

かちゃん

「確保」
波多野が囁く。見ると、手首には手錠がかけられていた。
「なにをするんですか!?」
「その顔の人間には用心することにしているからな」
座席を倒して、波多野が押し倒してくる。
手首の手錠の冷たさが、これが冗談ではないことを告げている。

「待ってください!け、警察官がこんなことしていいと思ってるんですか!?」
「俺の目の前で知らない奴といちゃつくからだ」
「ま」
再び唇を塞がれて、僕は息が出来なくなった。

抵抗しようと思うのに、頭が混乱して、手足は萎えるばかりだ。
制服のシャツを脱がそうと、波多野が腰に手を回した。
波多野の手が僕の背中に触れて、僕の身体をまさぐった。
キスは激しさを増して、僕の脳を犯してくる。

「やめ・・・ろ・・・」
体をねじるようにして、キスから逃れようと僕はもがいた。
警察官がいたいけな高校生をパトカーの中で犯す。
そんなことがあっていいのか!?
僕は混乱し、怒りに震えながらも、脳天を貫くようにひとつのことに突き当たった。

前にも、こんなことがあった・・・。
僕は確かにこの男を、知っている。
この男の匂いを、キスを覚えている・・・。










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