通報されたら俺たちだって免職になる・・・。

その言葉に、僕は血の気がひいた。
そうだ。深くは考えてなかったけど、酒の席に未成年がいて、しかも相手が警察官だった場合、ただで済むはずがない。
相手はルールを守らねばいけない法の番人なのだ。

「ようやくことの重大さが飲み込めたって顔だな・・・」
憎憎しげに、波多野は言う。
「それで・・・あんなにジロジロみてたんですか?」
「いや・・・それは・・・」
波多野はちょっと躊躇ってから、
「あんたが俺の昔の知り合いにちょっと似てて・・・でも、それだけだ」
小さな声で言った。

「とにかく、二度とこんなことすんなよ!大方、女子高生の悪戯かなんかだろうが・・・」
女子高生。
波多野は、僕を女子だと思っている。
ただでさえこんなに怒ってるのに、さらに男だとばれたら、どんな目に遭うか分からない。
僕は黙っていることにした。
「ちづねえが心配だったから、来てしまっただけなんです。許してください。もうしませんから」
「ちづねえ?ああ、小田切さんの妹なのか。あんたら、あんまり似てないな」
波多野は呟いて、それから軽く手を挙げた。
目の前でタクシーが止まると、それに僕を押し込んだ。

「このこを家までやってくれ」
「えっ、でもちづねえが!」
「あとでちゃんと送るから、心配するな。これでも俺たちは警察官だ」
波多野は運転手に一万円を渡すと、ドアを閉めた。

タクシーは滑るように夜の闇に紛れた。
見送る波多野の顔に、どうも覚えがあるような気がして、僕は小さくなってゆく波多野の顔をいつまでも見ていた。

あんたが俺の昔の知り合いにちょっと似てて・・・。
そんな言い古された口説き文句のようなセリフを、僕は忘れることができなかった。



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