「もし、お前が思い出さなかったら」
暗闇の中で波多野が言った。
「俺は未成年に対する連続強姦罪で告訴されるな」
「そんなことが怖いんですか?」
軽蔑するように、波多野の腕に頭をもたれたまま僕は言った。
「お前が未成年じゃなければ・・・こんな」
「どうでもいいじゃないですか、そんなこと」
僕は言った。

「よくねーよ」
波多野は言って、煙草に火をつけた。
ぱあっと部屋が一瞬明るくなり、波多野の端正な横顔が浮かび上がった。
腕時計を見る仕草。

「いけね。交代の時間だ」
「帰るんですか」
「ああ」
「・・・」

仕事だと言われてしまえばそれまでだ。
それでも。
僕は波多野の銜えた煙草を取り上げて、自分の唇に運んだ。
「お前・・・」
「波多野さんは僕と仕事とどっちが大切なんですか」

僕は煙草をふかしながら、上目遣いで波多野を睨んだ。

「生まれ変わっても、相変わらずの小心者ですね。波多野さんは。ほんと、どうしようもない・・・」






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