「色っぽい声がすると思ったら、恭子ちゃんじゃないの」

突然背後から声がした。
はっとして振り向くと、甘利が立っていた。

「女の子にやられるなんて波多野もだらしないねえって思ってたら、男の子だったみたいだな。実井だって?マジな話それ?」
私服の時と違って、警察官の制服を着た甘利はそれなりに貫禄がある。
甘利は僕を立たせると、波多野を助け起こした。
波多野はショックだったらしく、浮かない顔をしている。

「あ〜水羊羹落ちてる。勿体無い」
わざとらしく明るい声で言い、甘利は、
「中は大丈夫みたいだ。折角だからお茶でも入れようか」

お茶と水羊羹を前にして、僕は沈黙した。
警官強姦未遂の現行犯だ。しかも未成年・・・。
甘利は値踏みするように僕をジロジロと眺めた。
「恭子ちゃん男だったなんて、俺ショックだよ。可愛い子だと思ってたのにさ」
「・・・甘利先輩。こいつは実井です」
「お前がそう思いたいのはわかるけど・・・」
宥めるように甘利がそういうと、波多野は顔を赤くして、
「普通の高校生にさっきみたいな真似ができますか!?こいつは実井なんですよ。間違いないです」
「まあねえ。確かに波多野は小さいけど、一応警官だしな」
「小さいは余計ですよ」
「恭子ちゃんはどうなの?実井だって自覚あるの?」
「あります。僕は実井です」
僕は憮然として言った。
「何か覚えてることある?」
「覚えてることって・・・」
僕は波多野を見た。
「波多野さんを・・・覚えています」
「どんな記憶?」
「・・・体が、覚えています」
言いながら、僕も赤面した。
恥ずかしいことを言ってるのはわかってる。
でも、こうなった以上、実井であることを証明するしかない。
たとえおぼろげな記憶であっても。

「言うねぇ。高校生の癖に生意気〜」
甘利の明るい瞳に、わずかに嫉妬の色が混じった。




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