気がついたときには、僕は波多野の背中を思い切り蹴り飛ばし、派出所の中に叩き込んでいた。
後で考えると、どうしてそんなことができたのかわからない。
僕はまるで忍者のような身のこなしの軽さで、波多野に飛び掛った。
折角の水羊羹の箱は壁にたたきつけられて、床に落ちた。
波多野は、あっけにとられて、体勢を立て直すのに時間を要した。
僕は波多野の襟首を掴み、脅しつけるような声で囁いた。

「ふざけるな。僕をあんな目に合わせておいて、思い出せないならもう来るなだと?・・・僕を誰だと思ってるんだ。僕を舐めるな」
「・・・お前・・・」
「舌を噛むなよ」
僕は言って、波多野の唇に唇を押し付けた。
「うっ・・・ふ・・・」
逃れようと波多野はもがいたが、逃すもんか。
背丈なら僕のほうがある。
手足だって長い。
「ん・・・っ・・・待てっ・・・実井・・・」
「抵抗するなら使えるほうの右手もへし折ってもいいんだぜ?」
僕が囁くと、波多野は目を見張った。

僕は今度はもう少し深く、口付けた。舌先から痺れて溶けていくようだ。
波多野はぎりぎりまで踏ん張っていたが、とうとう手足の力を抜いた。
そのタイミングで腰のベルトを外す。
「待て。どうする気だ?」
「どうするって・・・決まってるだろ」
「ここで?派出所だぞ!」
「こないだはパトカーだった。今度は派出所で、何も変じゃないじゃないか」
僕は言い張った。
少しでも妥協すれば負ける。
無力なただの高校生に戻ってしまう。
「人が来るって!」
「だから?見られると興奮する?」
僕は冷たい目で波多野を見下ろした。

波多野はあっけにとられたように口をぱくぱくさせていたが、
「お前・・・それ、実井だ・・・」

「最初からわかってたんだろ?僕は実井だって。今更なんだよ」
僕はいいながら、波多野の制服のボタンをひとつずつ外していった。




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