「京介」

放課後。木田が近寄ってきて、
「本屋行こうぜ。新刊出たんだ」
と言った。
あれから毎日、木田はなんだかんだといって僕を送ってくれる。
「いいよ」
断る理由もないし、本屋は好きだ。

街の本屋はこの辺りでは一番大きな本屋で、立ち読みする人も凄く多い。
「何を買うの」
「こっち」
狭い通路に入る。木田は自然に僕の手を引いた。

洋書のコーナーだ。外国人がちらほらいるだけの閑散としたエリア。
新しく映画になった魔法使いの雑誌などが置いてある。
「あ、これ観たかったやつ」
僕が立ち止まり、雑誌を手に取ると、背後に木田の気配を感じた。
「小田切」
木田は背後から僕を抱きしめた。

「なっ、くっつくなって。暑い」
そういってふりほどこうとしたが、木田は腕をますます強く締め付けて、僕を放さない。
「冗談よせよ」
「好きなんだ」
唐突に、木田が言った。
「?僕も好きだよ」
「じゃなくて・・・真面目に。お前のことが・・・」
木田が僕の首筋にキスをしてきて、僕はぞっとした。
冗談なんかじゃないのが、伝わってきたからだ。
「よせよ、人が見るだろ!」
「誰もいない」
フロアにはいつの間にか人がいなくなっていた。
だけど、でも、こんなのはだめだ!
逃れようとする僕を本棚に押し付けて、木田は唇を奪った。
木田とは思えない力で、僕の手首をがっちりと押さえつけている。
「・・・ふ・・・」
脳裏に波多野の顔が思い浮かんだ。

「そこのふたり、離れろ!」
鋭い声がした。見ると、銃口を構えた波多野が、僕らを狙っていた。



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