辺りは炎に包まれていた。
煙が充満して、目を開けていられない。
「実井!!」
波多野の声。波多野が俺を探している。
「波多野!!こっちだ!!」
叫んでも、声は炎にかき消される。波多野の声が遠ざかる。
波多野、行かないで・・・。
波多野、俺はここにいる・・・。

目を開けたら泣いていた。
自分の中に自分の知らない自分がいる。
そいつが、波多野を恋しがって泣き喚く。
僕は身体を起こして、時計を見た。4時前。まだ暗い。
階段を降りて台所に行く。引き出しから風邪薬を取り出した。
風邪ではないだろうが、熱を下げる効果はあるから、大丈夫か・・・。
コップに水を汲んで、薬を飲み干した。

夢。たかが、夢だ。でも妙にリアルだった・・・。
「前世・・・?馬鹿馬鹿しい・・・」
でも、夢に見るなんて・・・。夢の中で、僕は実井だった。
そのことに違和感はなかった。
僕は波多野を待っていた。どうしようもなく。

二階に戻り、携帯を見ると、
<薬を飲んで寝ろ>
とあった。波多野からだ。
僕は実井じゃない。だったらなぜ、あんな夢を見たのだろう。
僕は実井になりたいのだろうか・・・。

波多野と実井は恋人同士だったんだ。
そして、戦争かなにかで、引き裂かれたのだろう。
戦争。
生まれ変わったってことは、戦争でふたりとも死んだのか。
「馬鹿な。僕はまだ信じたわけじゃ・・・」
だけど僕は、僕の身体は、波多野の匂いを知っていた。
傷つけられて、熱まで出したのに、恨むことも出来ない。
僕は待っていたんだ。
波多野に出会えるのを。
ずっと前から。
「どうかしてるよ・・・熱のせいだ・・・」
きっと生まれて初めて男に抱かれたせいで、混乱しているんだ。
僕があの男をすきだなんて、そんなことあるはずもないのに。



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