「なんのようだ?貴様は任務の途中だろう」
冷たい声はいつもどおりだ。

「任務は順調にすすめています。それより、聞きたいことが・・・」

三好が躊躇うのをせかすように結城が問い返す。
「なんだ?」
三好は幾分顔を俯いてやっと、
「なにか、しませんでしたか?僕に・・・」
と言った。
「何かとは何をだ?」
そう返されて、三好は赤面した。
なぜここへきたのだろう?何を根拠に僕は。

これまで、女と寝たことはあったが、男は初めてだった。
真島を誘ったのは本の気まぐれ。ジゴロの手管に関する単純な興味だと思っていた。
が、真島に触れられた時、自分の記憶の奥底で、何かを思い出した。
それが意図せず口から出たのだ。「結城さん」と。
しかし、何一つ証拠はない。

自分の記憶が何を意味するのかもわからないが、確かめたい衝動に駆られていつの間にかここへ来ていた。

「記憶がないときがあるんです・・・」
「それが、どうした。貴様に俺が何かしたせいで記憶がないと?」
「・・・違いますか?」
三好は結城を見たが、暗い影の塊のようで、表現が読み取れない。

しまった、もう少しよく考えてから来るべきだった。
三好は身体がかあっと熱くなるのを感じた。
「いえ、失礼しました」
搾り出すようにそういうと、部屋から出ようと後ずさった。

「貴様が思い出すとはな、もう少し深く記憶を眠らせなくてはいけなかった」
そう低い声が耳元で聞こえた。

熱く火照った身体を冷たい手がなだめていく・・・心地よい感触に、三好は自然と身体を預けていた。
窓の外から入っていた夕陽の筋が絶えて、部屋は暗く静まりかえった。
その中で、三好の息遣いだけが響いた。

明日の朝、また俺は何一つ覚えていないんだろうな・・・なんとか保っていた意識の淵で、三好は漠然と考えた。






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