この街で一番の高級なホテルの一室に、三好と真島は入った。

三好が誘ってきた。そのことに顔を上気させて、真島は彼が好むだろうホテルへ連れてきたのだ。
センスのいい調度品が並べられ、窓からは街の喧騒ではなく、美しい芝の揃う庭園が見える。
ツインのベッドは広くて清潔なシーツがかけられている。

そのひとつに三好が腰を下ろすと、真島ははやる気持ちを抑えながら、そっと三好に口付けをした。

何人もの女を相手にしてきたジゴロだったが、初めて三好とキスをした日から、どんな女を相手にしても物足りなかった。そこで、男を相手にするようになったが、女よりは高揚するものの、三好に受けた鮮烈な記憶は少しも薄らぐことがなかったのだ。
なんとか今の仕事を続けてはいたが、もう、自分が本気になることはないだろうな、と諦めかけていた時、三好が、自分の手の中に来てくれた。

真島は嬉々として三好の身体に触れた。冷たくすべらかな肌に手を滑らせ、邪魔な衣服を脱がせていった。
三好の口に力が入るのがわかる。真島は出きる限りの手を尽くして、三好の身体を高めていった。

「・・・ん!・・・はぁ・・・」

三好の口から吐息が漏れた。
その姿に真島は見惚れながらも手を休めない。
そして、うつ伏せにした三好に身体を重ねようとした時、切ないような苦しいような声で、三好が呟いた。

「あ、・・・ゆゥ・・・き、・・・さ・・・」
「なに?」
聞き取れない。
真島が三好の顔を覗き込むと、顔を真っ赤にさせて、口元に手を当て、目を驚いたように大きく見開いた三好がいた。
先ほどの色気とは打って変わって、少年のような、少女のような可憐な姿に、真島は面食らった。
「どうしたんだ?」
真島が聞いても返事がない。
少ししてから、漸く三好は、
「・・・すまない」
と、呻くように言った。
そして、さらっと服を着て、部屋を出て行こうとする三好を、真島は呆然と見詰めた。

去り際、思い出したように真島を振り返り、つかつかと歩み寄ると、ベッドに座り込む真島の両腕に自分の手を重ねて、熱くて冷たいキスをした。
ドアが閉まる音を聞きながら、真島はどさりとベッドに倒れこんだ。
「何だったんだ?ゆき?幸?雪?・・・雪さん?ゆ、・・・」
真島はごくっと唾を飲み込んだ。

「ゆうきさん?」
そして、あの夜よりも大きなため息をついた。




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